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2013-07-16

「お尻がかゆい」

たしか83歳になる向かいのベッドの患者。
透析歴は5年にはなってないはずだ。

透析はふつうは腕の深部を走ってる動脈と
やや表面に近い静脈を
手首の部位で繋いでショートカットすることで
針が刺しやすい血管の流れをよくする。

最初は手首とひじまでの間で
血液を取り出し
透析フィルターを通して老廃物をろ過し
あるいはカリウムやナトリウムのバランスを整え
再び血管に返すのが透析だが
やがて使用年数や加齢や食事によって
血管が細くなったりして血液が十分取り出せなくなると
他の部位に移ることになる。

そのひとつ
肘の近くの動脈をこれも手術によって
静脈を脇にして動脈を表面に近いところに引き出す。

ところが血管の劣化が激しかったり
細くなったり蛇行していると
なかなか穿刺が思うようにできないようで
その向かいのベッドの患者の透析開始にいつも
看護師も技師も悪戦苦闘だ。

しかも
片方の腕で血液を取り出し
もう片方で血液を返しているので
本人にとっては
ほぼ十字架に縛られてるかのようなイメージ。

4時間その態勢はつらい。
我々のように片腕でもゆうつなのに
両腕が使えないのは難儀だ。

かゆいところがあっても
自分ではどうにもならない。
看護師を呼ぶ言葉がこれ。
「腕がかゆい」ならましも
「お尻がかゆい」

と言葉だけを聞いてると笑い出しそうにもなるが
とても笑えない。

駆けつけてかゆいところを掻く看護師も大変だが
ご本人もめげないといいといつも思う。
ただ部屋に響き渡るような大きな声で
「お尻がかゆい」と
看護師を呼ぶのは止めてもいいとは思う。


*写真=富士山5合目。